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もしも新垣がヲタバレを恐れる女子高生だったらV

1 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:23:05 ID:???
「あたし実はけっこうモー娘。好きなんだよねー」
「・・・あ、じ、実はわたしも・・・!」

   ノノ_,ハ,_ヽ 
 Σノlc|;・e・)|l<・・・・・・っは!
  _| ⊃/(___
/ └-(____/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

カミングアウトの瞬間に目が覚めたガキさん

もしも新垣がヲタバレを恐れる女子高生だったら
http://ex10.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1117192792/
もしも新垣がヲタバレを恐れる女子高生だったらU
http://ex10.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1118970458/

2 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:25:04 ID:???
はじめは見間違いかと思った。

地元に来た『娘。』のコンサート会場で、僕はクラスメートの新垣を目撃した。
コンサート会場で女の子を見るのは珍しくないけど、あんなにはしゃいでいる女の子を僕は見た事が無かった。
僕はただのファンだからヲタ芸とかは詳しくないんだけど、新垣のヲタ芸は完璧だったと思う。
それほど輝いていたし、周りの視線もかなり集めていた。
視線の元はもちろん生粋のヲタ達で、何かそのヲタ達は新垣を崇拝している様にも見えた。
僕は声を掛けようとしたけど掛けれなかった。コンサート中だったし、何かいつもの新垣とは違ってた。

翌日、いつもの様に遅刻してきた隣の席の新垣に、昨日の件を小声で聞いてみた。
「新垣、昨日さ、『娘。』のコンサ会場にいなかった?」
「い!いるわけ無いじゃん!」
椅子から転げ落ちそうになる程のすごい反応をみせ、新垣は否定した。
「おかしいな?昨日見たのは確かに新垣だったんだけどな」
「私、家で勉強してたもん!」
そう言って新垣は僕の反対方向を向いて机に突っ伏した。
真っ黒な髪からぴょこんと覗いた耳の赤さで顔も真っ赤であろうと想像できる新垣を眺め、
見間違いだったか、と僕は思い改めた。

その日の晩のコンサートチケットも手に入れていたので、僕はまた会場へ向かった。
僕は別にヲタでは無く1ファンのレベルなんで地元のコンサートぐらいしか参加できない。
今夜のチケットも1枚だけ手に入ったので僕はひとりで会場へ来た。
クラスの中では『娘。』好きって公言する男子はいなし、もちろん女子もいない。
でもそれは別に僕にとっては好都合だった。
会場で知り合いに会う心配も無いし、連れの事を気にせずに『娘。』だけに集中できるから。

会場近くまで来たところ、いつもの様にヲタの集団が会場前にたむろしていた。
何やら騒がしい。騒ぎの方を見ると、女の子1人を男ヲタが囲んでいた。
あの女の子は──新垣だ。

3 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:25:55 ID:???
「新垣?」

僕はコンサート直後の会場内で声をかけた。
すると新垣は、あっ!と驚いてからさっとサングラスを掛けて答えた。
「ち、違いますよ。人違いですよ」
「違うの?ごめんなさい」
やっぱり違っていたのか──そう思いながら走り去る新垣らしき人を眺めていると、ヲタの集団がその人に声をかけた。
「新垣師匠!何してんすか?」
「ちょ、お前黙ってろ 」
そう答えた新垣(確定)は一瞬僕の方を向いた後、会場の外へと逃げて行った。

帰りの電車を待つホームのベンチで、僕は新垣の事を考えていた。
新垣とは学校でもよく話してて活発な娘だって印象があったけど、『娘。』が好きだなんて聞いたことが無かった。
──よくよく考えると、新垣はむしろその話題を避けていた感があった。
好きな歌手の話を聞いてもモゴモゴ言っていた気がする。

帰りの電車がホームに近づき、僕はベンチを離れて乗り込み口位置に立った。
電車のライトを見たその時、僕の背中を誰かが勢い良く押した。
よろけながらも何とか振り返った僕の視界に新垣が写った。
電車はホームにどんどんと近づいている。
僕はホーム下に吸い込まれていった。

4 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:27:16 ID:???
「ヲイヲイ大丈夫か?轢かれては無いよな?」

頭上から聞こえる声で気がついた僕の目の前には電車の車輪があった。
咄嗟の判断で僕はホーム下の退避帯に逃げ込んでいたのであった。
良かった──そう思ったすぐ後に新垣の事を思い出した。
急いでホーム上に駆けあがり、新垣を探した。

すぐに階段を降りていく黒髪──新垣を見つけ、心配して声をかけるホームの人々を押しのけ、階段へと走った。
階段を降りきり、改札を抜け、駅前に出ると、走りながら振り返る新垣を見つけた。
大きなリュックを背負って逃げる新垣に追いつくのは簡単だった。僕は、新垣の腕を掴み、怒鳴った。
「新垣!お前なんで?」
新垣はあまりに僕が勢い良く怒鳴ったせいで萎縮していて、今にも泣きそうな顔で僕を見つめている。

僕は落ち着きを取り戻して新垣に問いかけた。
「何で、あんな事を?」
「──バレちゃったから」
そう言うと、新垣は僕の腕を振り払い、近くの階段に腰を下ろした。
「『娘。』のマジヲタだってクラスの友達に知られたら、私、もう学校行けない」

うつむいたまま肩を震わせてそう言う新垣の隣に座り、僕はやさしく問いかけた。
「僕が新垣のことをクラスのみんなに言いふらすって思ったのか?」
新垣はコクンと頷き、僕を見て口を開いた。
「バラさないでいてくれない?」
「えっ?バラすバラさないの問題じゃないと思うけど──」
さっき確かに僕は新垣に殺されかけた。それは事実。
僕は自分の中で事の顛末を整理しようとした。

ふいに新垣がつぶやいた。
「何だってするから」
「えっ?何だって──する?」
僕の脳内の殺されかけたという事実を、あらぬ想像が瞬時に侵食していった。

5 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:29:13 ID:???
僕の脳内の99.9%がピンク色に染まりつつあった頃、新垣が自分のリュックの中を手探りしている事に気付いた。
「何探してんの?」
そう問いかける僕を無視して新垣は手探りを続ける。
「あった!」
そう言って両手をリュックから取り出すと、その手には金色に鈍く光るカイザーナックルが装着されていた。
一気に血の気の引いた僕は、新垣に問いかける。
「さっきの何でもするってのは、もしかして?」
「証拠隠滅の為だったら、何でもするよ」

至近距離から連続でジャブを放つ新垣。僕は何とかそれを全部かわす。
「やめろ!新垣!殺す気か!」
「そうだよ!シュッ!シュッ!シュッ!」
「バラさないって!バラさないから!」
「ん?今何て?シュッ!シュッ!シュッ!」
「僕だってバレたら困るから!」
「シュッ!シュッ!ん?そういえばそうだね」
ようやくジャブのラッシュが終わり、カイザーナックルを両手から外す新垣を見て、僕はホッと胸をなでおろした。

息を整えた後、僕と新垣で話しあった。
「じゃあさ、この件は二人だけの秘密って事で」
「うん。──ちょっと待て、この件って殺人未遂の件も入ってるのか?」
「殺人未遂?何の事?」
「おいコラ!新垣!お前さっき僕を──」
「ヲタバレされて困るのは、お互い様だったよね」
「ううっ」

痛い所を突かれた僕は、それ以上の責任の追及を放棄せざるを得なかった。
これで新垣と二人だけの秘密を持ってしまった。恋人同士ならいざ知らず。
この秘密は扱いを慎重にしなければ、今後の僕の人生設計に響いてしまう。
夜空を見つめて腕を組み、難しい事を考える僕を見て新垣がにっこりと微笑んだ。

6 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:36:23 ID:???
次の日。またしても遅刻してきた新垣は、隣の席の僕に微笑んで言った。
「おはよう」
「はい、おはよう」
僕と新垣は、いつもと同じ様に挨拶を交わした。

元々新垣とは親友でも無く友達?でも無く、ただのクラスメートだったから、
『娘。』ヲタ(あくまでも僕はファン)っていう共通項が出来たってだけで以前と何も変わらない。
──そう思っていたのが間違いだった。

その日から新垣は、休み時間のたびに僕を教室から人気の無い屋上へ連れ出し、『娘。』談義をするようになった。
「ねぇねぇ!これ見てよ!かわいくない?」
「うんうん、そうだね。でも学校では『娘。』話はやめようね」
僕は半ば呆れ気味に新垣にそう言い放つも、新垣はお構いなしに話を続けている。
「でさ!でさ!──」

互いに秘密を共有している以上、僕は新垣からの要請を断る事は出来なかった。
僕はこれまでも四六時中『娘。』の事を考えていたわけでは無かったし、
こうして学校生活サイクルが変わる程の変化も望んでなかった。
でも、目をキラキラさせてヲタ話をする新垣を見ると、なぜか許せた。

「ねぇ、聞いてんの?」
「うん、ちゃんと聞いてるよ、新垣」
「あとさ!あとさ!──」

新垣は近くにヲタ仲間(僕はあくまでもファン)が出来て、とてもうれしそうだった。
ふとしたキッカケで新垣がおなかを抱えて笑うと、僕もつい笑ってしまう。
あの日から僕は、以前と比べてよく笑うようになった。
梅雨の合間の青空に輝く新垣の笑顔は、僕の顔も笑顔にさせる魔力があるようだ。

7 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:38:26 ID:???
それから、一緒に帰る様にもなった。
とはいっても学校から駅までの1km程の短い距離なんだけど。
新垣は自作の『娘。』データブックを片手に僕にヲタ話をしながら歩く。僕はそれにうんうん頷く。
ほんの短い間だけど、生き生きと話す新垣の横で歩く僕は、うれしかった。
女の子とこうして2人きりになる事も無かったし、しかも一緒に帰るなんて夢の夢だったし。
わざとゆっくり歩いて少しでも一緒にいようとした事もあった。

イベントやコンサートにも一緒に行くようになった。
新垣からは、一緒に行こう?っていう誘いじゃ無くて、一緒に行くよね?っていう誘いなんだけど。
実は僕、イベントなんて行った事が無かった。新垣にその事を話したら、
あんた人生の半分は損してるよ、って言ってた。
何にしろ、ひとりでいた方が良かったなんて感覚は、新垣といるようになってすっかり忘れてしまった。

新垣は会場であう他のヲタ仲間から師匠と呼ばれている。いつのまにか周りにそう呼ばれはじめたらしい。
新垣は嫌がっているが、踊りや歌の完璧さを見ると、そう呼ばれるのもわかった。
他のヲタ仲間は新垣の隣にいるようになった僕に、なんの興味も関心も無いようだった。
僕の事がただの新垣の取り巻きヲタに見えているのだろうか。──複雑な心境だ。

「フゥー!ヲイ!ヲッヲイ!ヲイ!ヲッヲイ!」
新垣はそんな僕の思いもつゆ知らず、ステージ上の『娘。』に夢中だ。
イベントだというのに、僕の視線はついつい新垣にいってしまう。
新垣はもう汗だくで、ポン酢Tシャツもビショビショだ。
人が何かに夢中になっている時の汗は美しい。
僕は新垣に何か特別な感情を寄せるようになってしまっていた。

とはいっても、『娘。』のメンバーと目が合うと、こう叫ぶ僕がいた。
「れいにゃ!れいにゃ!れいにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
新垣は突然出された僕の奇声に一瞬驚いたものの、にやり!と笑ってまたステージに集中した。

8 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:39:46 ID:???
新垣は買い物にも僕を連れまわすようになった。
買い物って言っても、もちろんショップなんだけど。
2人で出かける時の新垣のはしゃぎぷりったら無かった。
私服もハーフパンツルックが多いんだけど、普段の制服姿とは違って新鮮に見えた。

あるビルの地下にショップは在った。パッと見、入口はわかりにくい。
前からショップに入るのを躊躇していた僕が、外から覗いていた限りではいつも客が1人か2人いた。
いかにもソレっぽい人だったり、背広を着たサラリーマン風の人だったり、
小学校高学年くらいの女の子集団もたまに目撃していた。

店内に入ると、新垣がレジの人に声をかけた。
「アレ、入ってないですか?」
「それがなかなか入んないですよ、師匠」
店員と談笑する新垣に、僕は後ろから声をかけた。
「ショップの店員にも師匠って呼ばれてるのか、新垣」
「常連だからね」
新垣は無い胸を張って活き活きとそう答えた。

僕は、新垣が店員と話していたことを聞いた。
「アレって何?」
「アレ?アレはねえ、写真」
「写真?公式の事か?」
「うん。どうしても手に入らないのがあってさ。プミレアっていうの?」
そう言った新垣は、店員になにやら合図をし、手渡された一覧表の一角を指差して僕に見せた。
「これ!」

見せられた小さなサンプル写真を見て、僕は気付いた。
「これ?──たぶん、僕持ってるよ」
「うそー!私でも持ってない写真を、何であんたが?」
新垣は、店内の客がギョッっとするような大声で叫んだ。

9 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:41:38 ID:???
「ねぇねぇ!ちょーだいよー」
「ダメダメ!」
僕は袖につかまる新垣を引きずって帰り道の橋の上を歩く。
なおも新垣は喰らいついてくる。
「ねぇーてっばぁ!写真!写真!」
「ダメったらダメ!」
僕は新垣が掴まっていた手を勢い良く払うと、さくさくとまた歩きだした。

数歩進んで、後で足音がしない事に気が付いた。
振り返ると、新垣は橋の手すりを乗り越えようとしていた。
僕は急いで新垣を捕まえ、羽交い絞めにして止める。
「おい!新垣何すんだ?」
「離してよ!私、ここから飛び降りて死ぬ!」
「いきなり何でだよ!?」
「あんたが写真くんないんだもん!」

ジタバタする新垣を何とか橋の欄干から切り離し、近くのベンチまで僕は引きずって行った。
なだめる様に僕は問いかける。
「落ち着け」
「落ち着いてる!」
そう言ってまた立ち上がろうとする新垣を僕は座らせて言った。
「写真くらいで何だよ」
「私『娘。』の為なら何だって」
「な、何だってだってー」

僕は嫌な予感がして身構えた。でも、新垣はこっちをじっと見たまま、また口を開いた。
「交換条件ってのはどう?──そっちはあの写真、こっちは女の子の大事なもの」
そういい終わると、新垣は僕の肩に手を置き、顔を近づけた。
新垣のまぶたがゆっくりと閉じられてゆく。
いや、僕がゆっくりと見えたのは、これがいい事ある記念の瞬間なのだからだろう。
新垣の体温が近くなり、僕もゆっくりと瞳を閉じた。

10 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 10:43:13 ID:???
僕は頬に一瞬ぬくもりを感じた。
目を開けると、隣で新垣が赤面して座っていた。
僕は何が起きたのかわからず、新垣に聞いてみた。
「今のは?」
「チュー」
「チューって頬に?」
「うん。私の、大事な、ファーストキス」
そう言ってますます顔を赤くする新垣を見て、僕は言った。
「頬にするのは、ファーストじゃないよ」
「えっ?そうなの?」
新垣は驚いている。
「知らなかったのか?」
「──うん、その辺はあんまり」
そうか、聞いてきた話では、物心ついた頃から『娘。』一本だって言ってたものな。

決死の覚悟で他人にあげたキスを、僕が何気に否定してしまい、すっかり新垣は沈み込んでしまっていた。
「新垣、ゲンキダシテ!」
両肩を揺すって顔をあげさせた僕の目に、新垣のうるんだ瞳が写った。
今にも泣き出しそうだ。いや、もう泣く。絶対泣く。
どうにかしようとした僕は新垣に言った。
「わかった!やるよ、あの写真。やるから、泣くな」
その言葉を聞いたとたん、新垣には笑顔が戻り、僕にこう言った。
「やったー!約束だからね!絶対だよ!約束破ったらバラしちゃうからね」
さっきの涙目が嘘のようにはしゃぐ新垣の左手には、目薬が握られていた。

「やられた。騙された──」
そう愚痴を言いながら歩く僕の両手を引っ張り、新垣は笑顔で前を歩く。
「さぁ早く帰ろう!レッツラゴーホーム!」
新垣は何でこんなに明るいんだろう──僕は新垣の唇の感触が残る左の頬を撫でながら思った。

この時、僕達は気付いて無かった。何者かの凍りつくような背後からの視線を。

11 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 12:12:57 ID:6H2kELIM
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12 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/17(金) 22:44:58 ID:???
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13 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/19(日) 22:16:59 ID:???
「おはよう、新垣」
「──お、おはよ」

次の日の朝、新垣は珍しく僕より先に、僕の隣の自分の席に座っていた。
僕は昨日の約束通り、新垣の欲しがっている写真を持って来ていので、
隣の席でうつむく新垣に話しかけた。
「新垣、約束のアレ、今渡そうか?」
「──う、うん。今はあれだがら、昼休みにね」
新垣は少し動揺しながらそっけない返事をした後、僕の顔も見ずに教室を出て行った。
いつもなら『娘。』関係の話には飛び付いてくる新垣だったのに、今日の新垣は違った。
いつもと何か違うな──1時限目の準備をしながら僕は思った。

4時限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。
いつもならすぐに新垣から、昼ごはん一緒に食べよう、と誘いがあるのだが、今日は無かった。
僕は不思議に思って新垣に話しかけた。
「新垣?今日のお昼(御飯)は?」
「──その事で、ちょっと話しがあるの」
新垣は元気無くそう言って、僕といつもの屋上に向かった。

昨日までは屋上までの間、服の裾を引っ張ったり、手をつないだりして、
新垣が僕を引っ張って行くんだけども、今日はそんな事は無かった。
むしろ、僕が前を歩いて、新垣が三歩程後をとぼとぼと歩いて来ていた。
時折、後を振り返り、新垣は何かを気にしていた。
──やっぱり何かおかしいな。
僕はうつむいたまま付いて来る新垣を見て、そう思った。

14 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/19(日) 22:20:38 ID:???
「あのさ、」

屋上に出て、いつもの場所に座る前に新垣は、少し離れた場所から僕に話しかけた。
「ん?どうした、新垣」
「もうさ、一緒にお弁当食べるの、やめよっか?」
「何で?ヲタ話はしなくていいの?あの写真は?」
「もう、いいの。──あと、一緒に行動するのも、やめよ。」
「えー!?本当にどうした?新垣、ヲタ辞めた?」
「違うの、そんなんじゃ無くて──」
「無くて?」

「とにかく、もう話すのもやめね!じゃ!」
そう言って新垣は屋上からの階段を急いで下って行った。
去っていく後姿はいつもの新垣と同じだった。
ただ、新垣は一度立ち止まった。でも、振り返らなかった。
残された僕は、しょうがなくひとりで屋上の縁に座り、弁当を食べた。

久しぶりにひとりで食べる弁当に、僕は複雑な気持ちだった。
昨日まではふたりで、(主に新垣が)ワイワイしながら食べてた。それは僕も楽しかった。
その前はやっぱり屋上でひとりで弁当を食べていた。それはそれで僕は好きだった。
青空の下、ひとりで食べる弁当の味は格別だった。
弁当を食べた後、そのまま昼寝をして昼休みをつぶすのが以前の僕の日課だった。
僕は、その頃と同じように屋上に寝転がっても睡魔は降りて来ず、新垣の事ばかり頭に浮かんだ。
──新垣──。
『娘。』メンバー以外の顔を青空に浮かべたのは初めてだった。

15 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/19(日) 22:29:41 ID:???
「Zzz...」
「こらっ!屋上は立入禁止でしょうが!」
「うわぁ!ごめんなさい!──って、亀」

やっぱりいつのまにか眠っていた僕を、先生の振りをして起こしたのは亀井だった。
亀井は僕と同じクラスで、新垣とも幼なじみだって聞いた事がある。
今日の新垣の事、何か知ってるかな?──そう思って亀井に話しかけた。
「あのさ、亀」
「亀言うな!」

僕が亀井を知ったのは、新垣を知るよりもだいぶ前だった。
高校に入った頃、階段から転げ落ちようとした女子を、寸前の所で僕が後から捕まえた。
それが亀井だった。
後になって分かったが、亀井は実にオッチョコチョイでアフォな子だった。
その時も、モンシロチョウを追いかけていたら階段に気付かずに落ちる寸前、の所だったという。

新垣の事について、また問いかけた。
「新垣の様子がおかしいみたいなんだけど、亀、何か知らない?」
「──知らない」
さっきまでの元気とは違って、亀井は急にうつむいてそう答えた。また僕は聞いた。
「幼なじみで親友だろ?」
「うん。──それよりもさ!何であんた、いつもここにいんの?」
返事の後、急に明るく喋り出す亀井は僕の横に座ってきた。
「何でいつもここにいるって知ってんの?」
「うへへへ」
「何で隣に座ってくるの?」
「うへへへ」
率直な疑問を僕が投げかけても亀井は、奇妙な笑い声と満面の笑顔ではぐらかすだけだった。

16 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/20(月) 00:32:44 ID:???
それから何日も新垣は僕を避け、変わりに亀井が僕に付きまとうようになった。

新垣を目にすることが出来るのも、教室の中ぐらいにしか無くなっていた。
休み時間中も前のように屋上へは行かず、教室内で周りのクラスメートと過ごした。
新垣は、やはり僕を避けていた。話しかけても、すぐ終わらすし、たまに目が合っても、
すこし見つめた後、新垣は何かに気付いてすぐに視線を外すんだった。
だから、余計に僕の視線を新垣は集めた。

時折、クラスメートの雑談に新垣がブツブツ言っていた。
「7期は千春だよね」
(小春だよ)
「ゴマキってさ〜」
(ゴマキみうな!)
「モーニング、」
(ビクッ)
「ムーンって名曲だよね、チャゲアスの」
(紛らわしー)
「田ってトゥルトゥルなんだろ?」
(ボーボー!──ハッ!)

新垣はニヤニヤして眺める僕の視線に気付くと、一旦目線を合わせるものの、
僕の背後からの視線を感じ、ハッとしてまた机に突っ伏した。
僕が後を振り向くと、亀井がいつもと違うキツイ表情をしていた。
亀井は僕の視線に気付くと、途端に顔をほころばせ、また──うへへへと微笑んだ。
それを見ていたクラスのお局的存在の女子が亀井に、キモイ、とつぶやいた。

17 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/20(月) 00:37:24 ID:???
その日も僕と亀井は、屋上で一緒にお昼御飯を食べていた。
ぬけるような青空の下、ニヤニヤしながらうれしそうに弁当を食べる亀井とは対照的に、
僕は頭を下げ、黙々と弁当を食べていた。

僕のその様子を気にした亀井が声をかけてきた。
「どうしたの?元気無いよ」
「そう?」
「うん。──ほら、このハンバーグ食べて元気出して!」
そう言って亀井は自分の弁当から一口大のハンバーグをとり、僕の口の前まで運んだ。
「あーん」
「あーん、パク。モグモグ──おいしい」
「でしょ?がんばって作ったんだから」
「え?亀が作ったのか?」
「うん、お母さんに習ったの」
亀井は無い胸を張ってそう言った。僕は呆れるように言い放った。
「うまいよ、お母さんのレシピがね」
「そんなぁ、──あっ」
うなだれる途中で亀井が何かに気付いた。
「どうした?」
と僕は聞いてみたが、亀井は手を振ってなんでもないってした。

弁当も食べ終わって、僕はいつもの様に大の字に寝転がった。
僕はずっと気になっている事をまた、座ったままの亀井に聞いてみた。
「あのさ、新垣の事なんだけどさ」
「あっ、そういえばさ」
亀井は急に初っ端から話題を変えた。
「もうすぐ梅雨じゃん?」

18 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/20(月) 00:43:30 ID:???
不満顔で何も答えない僕を見て、亀井はもう一度言った。
「もうすぐ梅雨じゃん?」
「もう入ってるよ」
「そうなの?」
「そう」
「ふーん、で、雨って降るじゃん?」
亀井は軽くスルーした。でも最近の僕は慣れたもんだった
「降るね」
「雨ってさ、何で降るか知ってる?」
「そりゃ、水の循環がどうこうとか、蒸発とか、凝結とか云々──」

「違うよ、そんな難しいことじゃ無いの」
「何?」
「雨が降るのは、地球に重力すなわち引力があるからなんです!(川平慈英風)」
「──それって、”雨が”じゃなくて”降る”の方の説明だろ」
「そうか!ってそれよりも」
亀井はまたスルーして、寝ている僕の方に近寄ってきた。

急に亀井は僕の両脇の床に両手をつき、半馬乗りになって言った。
「あんたは、引力って信じる?」
「そりゃ、信じるも何も──」
ゆっくりと体を倒した亀井の顔は、僕の顔のすぐ前まで迫っていた。
なおも亀井は顔を近づけて言う。
「あの時の事も、今のこの状態も、エリとあんたの引力のせいじゃないかな?」

僕は、このセリフどこかで聞いた事があるな、と思った。
そういう間にも、亀井は更に顔を近づて来る。
僕の瞳には、普段から黒い亀井の顔が、逆光で更に黒く写った。

19 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/22(水) 00:28:47 ID:???

亀は何であんな事を?──僕は亀井の唇の感触が残る右の頬を撫でながら思った。
今は既に5時限目、僕と新垣と亀井とその他大勢が教室で授業を受けていた。
僕は、斜め前の席に座る亀井を眺めてみる。

亀井は授業中はいつも集中している。
亀井はアフォな子なので、先生が言葉を言った後、3秒程してから、あっ!そうか!と手包みを打つ。
亀井は時折、耳にかかるショートの髪をかきあげる。
亀井は──
ふと、隣の席の新垣からの視線に気付いた。──睨んでいる。僕は睨まれている。

(どうした?)
(別に)
小声で話しかける僕に、新垣はそっけなく返事し、むこうを向いて机に突っ伏した。
どうも最近、亀井と新垣の様子がおかしい。
前の様に笑いながらお喋りする事も無くなっていたし、一緒にいる事すら無くなっているように感じた。
僕には、睨みつける亀井を新垣が避けている様に見えた。
喧嘩でもしたのかな?──僕は大事な女友達の為に、一肌脱ごうと思った。

20 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/22(水) 00:29:41 ID:???
その日の6時限目終了後、急いで教室を後にする亀井を不思議に思って僕は、新垣に聞いてみた。
「ちょっと、新垣。亀は何かあんのか?」
「──急ぎのバイトだって言ってた」
新垣は席に座ってうつむいたまま、そう答えた。
「亀はバイトしてんのか」
「──うん」
新垣は視線を合わせずに、またそう答えた。
「最近おかしいぞ、新垣」
「──おかしくなんて無いよ」
そっけ無く言う新垣に、僕は腹が立った。

嫌がる新垣の手を引っ張り、教室を出た。
「今日は一緒に帰ろう。亀井もいないし、話しよう」
「ちょちょっ!待って待って!」
慌てながらも僕について来る新垣は、少し笑顔だった。

21 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/22(水) 00:31:00 ID:???

またあの時と同じ、駅前の橋の近くのベンチに座り、僕は新垣に問いかけた。
「最近おかしいぞ、新垣」
「──さっき聞いた」
新垣はまた、うつむいたままそう答えた。

夕方の駅前は人通りも多く、雑踏と喧騒が辺りを包んでいる。
前は二人きりになると、『娘。』談義をしてきた元気な新垣は、もうそこにはいなかった。
ただうつむき、難しい事──亀井の事?──を考えているようで、うつむいていた。
僕は元気の無い新垣は嫌いだ。

僕は新垣に問いかけた。
「新垣、亀と何かあったのか?」
「──何も無いってば」
亀という言葉を聞いた時、少し体を震わしながらも、そっけなく新垣はまた答えた。
僕は元気の無い新垣を見るたびに、胸がキュッと痛んだ。

耐え切れず僕は、爆発した。
「何も無いわけ無いだろ!
 前はさ、一緒に『娘。』談義もできたしさ!
 亀もさ、新垣もさ、友達だったろ?それが話さなくなっちゃってさ、どうしたんだよ
 あの元気な新垣はどこ行った?
 新垣、聞いてるか?新垣」
「──」
気付くと、新垣は涙を流していた。

22 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/22(水) 00:32:07 ID:???
僕は途端に冷静に戻った。
声を押し殺したまま涙を流す新垣に、僕は何とか泣き止んでもらおうと思った。
「どうした?新垣?僕、強く言い過ぎた?ゴメン、新垣。──師匠、どうした?師匠」
「──」
新垣は泣き止まなかった。僕は途方にくれ、ベンチにもたれ、ため息を吐いた。

しばらくして、新垣が口を開いた。
「ありがと」
「おっ?どうした」
新垣の声に僕は、うなだれていた体を戻し、新垣の方に体を向き直した。
「あんたが、私の事、心配してくれてるってのはわかった」
「心配するさ」
涙を自分で拭きながら話し始める新垣に、僕はとりあえずホッとした。

僕はできるだけやさしく、新垣に聞いてみた。
「聞かせてくれるか?何があったか」
「──うん」
新垣は赤い目をこすって、僕の方に向きなおし、語り始めた。

23 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/22(水) 00:33:19 ID:???
「そうだったのか」

僕は新垣からすべてを聞いた。
聞いて、最近の新垣と亀井の行動を理解した。
新垣は僕の目を見て、真剣に話してくれた。話し終わった新垣は、またうつむいた。
亀井が僕を気に入ってくれているのは、うすうす感じていた。
昼休みに頬にキスされた時も、新垣の事を思いながらも、僕は抵抗しなかった。

「でも、フェアじゃ無いよね」
僕はそう言って、新垣の方をまた向いて、また続けた。
「亀井はさ、ずるいよ」
「ずるいかな?」
新垣は首をかしげた。僕は続けた。
「スポーツマンシップに反していると思う」
「うふぉ!」
僕の言葉に、新垣はおかしな声をあげて、反応した。驚いた僕は聞いた。
「うふぉって何だ?うふぉって」
「私も亀にそう言ったの。あははっ」
「えっ?」
新垣には笑顔が戻っていた。良かった──僕は心からそう思った。

安心した僕は、亀井の事を考えた。
──あの野郎──。
考えて、僕は新垣に聞いた。
「亀の家、知ってるか?」
「知ってるけど、何で?」
「亀に説教してやる!」
「え〜!」

僕は驚く新垣の手を引っ張って駅に向かった。

24 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/22(水) 00:35:02 ID:???
亀井の家の前まで来た僕と新垣は、亀井の部屋を見上げていた。

「電気、ついてないな」
「もうやめようよ」
家に入ろうとする僕を、新垣が止めようとしていた。
でも、僕は何とか亀井に説教してやろうと思っていた。
玄関の前まで来て、家の呼び鈴を押した。
「──いないな」
「ほら、まだ帰って来て無いんだよ」
新垣はやっぱり止めようとした。
「もう8時だろ?帰ってるって、絶対。ほらっ、亀の部屋の窓、開いてるじゃん」
「あっ、ほんとだ」
そう言う新垣を置いて、僕はエアコンの室外機と壁と雨どいを利用して、
亀井の部屋を目指した。

「ドロボーだよ、それじゃ」
「不可抗力だよ」
小声で何とか止めようとする新垣に、意味は分からないけどそれらしい言葉を返しつつ、
僕は亀井の部屋のベランダまで来た。
「ったく」
気が付くと、僕のすぐ後に新垣がいた。僕は驚いて、少し大声で叫んでしまった。
「うおっ!いつの間に!」
「シー!静かに!」
新垣は不安定な足場を2階まで上ってきたというのに、息も切らさず落ち着いていた。

僕と新垣で開いた窓から顔だけ覗き、カーテンをめくり、暗い部屋の中を見回した。
あそこ──そう合図する新垣の指差した先には、ベッドがあった。
ベッドの布団は盛り上がっていた。
僕と新垣は、ベッドにうごめく影を見た。

25 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/22(水) 17:34:46 ID:???
忍び足でベッドに近づき、僕は一気に布団をひっぺがして言った。
「コラッ!亀!」
横向きに寝転がっていた亀井は、ふぇっ!と驚いてこっちを見た。

新垣が電気を付けると、亀井はベッドの枕の方でヒザを抱え、震えて僕の方を見ていた。
亀井は何が起きたのかわからないと言った表情で怯えていた。僕はベッドに座り込んで亀井に言った。
「いきなりごめんよ、でも話があるんだ」
「えっ?何で?ちょ、ちょっと待って?」
亀井はパニクっていた。

部屋を見渡し、亀井の様子を眺め、新垣が何かを察した風にニヤリと微笑んで言った。
「亀ちゃん、おはよう」
「──おはようございます」
「夜だし」
素でボケる亀井に新垣が突っ込んだ。また、新垣が話しかける。
「なんで起きてるの?」
「エリはナンデ?エリは何をしてるんだろう今?」
亀井はかなりパニクっていた。

僕は気にせず、亀井に聞いた。
「亀、新垣の事なんだけどさ」
「ちょちょ、いーから、いーから」
新垣が間に入り込み、僕を押しのけた。
「ここからは私と亀で話しつけるから、あんたは帰っていいよ」
「えぇ!?なんだよ、新垣。大丈夫か?」
「大丈夫、大丈夫」
妙に強気に変わった新垣は、ベッドでまだ混乱している亀井の肩を抱き、また言った。
「亀ちゃん、ちょっと相談があるんだけど(ニヤニヤ)」
「嘘ー!」
新垣の声も聞こえていない様子の亀井は、手で顔を覆って、顔を真っ赤にした。

26 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/23(木) 10:39:49 ID:???
「えらい事になっとる」

今日は雨が降っていたので、僕は教室の中で弁当を食べていた。
で、僕の机の上には弁当箱が3つ。新垣と亀井が目の前に並んでいた。
双方の腕は僕の方に伸ばされ、その先には玉子焼きが箸でつままれていた。
「「はい、あーん!──んっ!?」」
新垣と亀井は同時にそう言って、その後、同時にお互いを睨んだ。

「ちょっと、亀、邪魔しないでくれる?」
「豆さんこそ、そのマズそうな物体を引っ込めたら?」
「玉・子・焼・きです!」
「それにしては、真っ黒コゲでしてよ、おーっほほほ!」
「チッ!」
勝ち誇った顔で言う亀井に舌打ちをする新垣の玉子焼きは、なるほど真っ黒だった。
対して亀井の玉子焼きは、色つやもよく、さすが毎日自分で弁当を作っているだけあった。

「新垣、無理しなくて良かったんだぞ。いつもみたく、お母さんに──」
「いーや!味はおいしいから!見た目だけだから、おかしいのは!」
そう言って、また新垣は僕の方に腕を伸ばした。亀井も負けずに伸ばした。
クラスの周りの視線が痛い。特に男友達からの視線が痛い。
僕、あとでいじめられるかも──そう思った。

「「ほら、早く!」」
2人に促されて、僕は同時に2つの玉子焼きを口に含んだ。
うっ──複雑な味がした。
「「どう?」」
そう聞いてくる2人に僕は言った。
「あまじょっぱい」

27 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/23(木) 10:41:11 ID:???

亀井の玉子焼きはしょっぱすぎて、新垣のは甘すぎた。
「うそー!エリ、砂糖と塩、間違えたのかな?」
亀井はアフォだった。
「甘ーいでしょ?がっばがっば入れたから、砂糖」
新垣も、なにげにアフォだった。
「でもさ、両方一緒に食べたら、丁度良くない?」
そう言う新垣に、僕は両方の玉子焼きをちょっとちぎって食べさせた。
「ううぇー!あまじょっぺー」
新垣はやっぱりそう言って悶えながら笑った。

亀井がムッとした。
「エリも!エリも!」
そう言う亀井に、僕が同じ様に口に含ませると、亀井はゆっくりと噛み始めた。
「モグモグモグモグ、──ウェーウェー」
亀井はあまりのまずさに、普段より更に頭をおかしくした。

3人がお茶でそのまずいモノを流し込んだ後、新垣が僕に聞いた。
「どっちの玉子焼きがおいしかった?」
負けずに亀井が聞いた。
「エリのだよね?」
目をキラキラさせてそう聞く2人に僕は、
「──どっちもおいしいよ」
そう答えた。
「「ブーブー!」」
新垣と亀井は揃ってブーイングしながらも、うれしそうだった。

僕と新垣と亀井の間には笑顔が戻っていた。
誰が誰を好きとかはとりあえず置いといて、友情一番──そう思った。

28 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/23(木) 23:21:00 ID:???
その週の土曜日、いとこに兄ちゃんから電話でサーフィンの誘いを受けた。
明日の朝は、いつもの場所にいい波が来るらしい。

僕は新垣と亀井も行くかなって思って、海にさそった。両方OKと言った。
お互いにもう一方もさそってるって伝え忘れた様な気がしたが、
まあいいだろうと思って、ほっといた。

いとこの兄ちゃん家は家族全員サーフィンが好きだ。
今僕が使っている道具一式もその兄ちゃんのお下がりがほとんどだ。
サーフィンもその兄ちゃんとおじさんに僕は習った。
僕の第ニの趣味がサーフィンだった。


そして日曜日、家の前まで来た、いとこの兄ちゃんのワゴンの助手席には、
女の人が乗っていた。
「おはようございます」
僕はあいさつをした。
「おはよー。──この子が?」
「そう、俺のいとこ」
いとこの兄ちゃんは、僕の事を女の人に紹介した。
「私、藤本美貴といいます。こいつの隣に住んでる幼なじみで──」
「俺の彼女だ」
藤本さんの声をさえぎって、兄ちゃんが言った。
うれし恥ずかしそうな表情を浮かべ、藤本さんは体を座席で丸めた。

車のうしろに荷物を積み込み、亀井と新垣を拾いに行った。

29 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/23(木) 23:21:53 ID:???
「きまずい」

車の後部座席に、僕を挟んで新垣と亀井が座っている。
お互いに窓の方を向き、口も開かない。──怒っている。

運転しているいとこの兄ちゃんが、バックミラー越しに僕を見ながら言った。
「それはお前が悪いよ」
「そうだよね、女の子にとって、デートのダブルブッキングはちょっとね」
助手席に座る藤本さんも同意した。

「どうすれば良いかな?」
僕はいとこの兄ちゃんに聞いた。
「どうすればつってもなぁ、──おっ、海が見えるぞ」
前の座席の間から見える海は、いい感じに波っていた。
僕はすっかりサーフィンの事で頭がいっぱいになり、新垣と亀井の事を忘れた。
それに気付いた新垣と亀井は、前に身を乗り出す僕の尻を両方からつねった。

そして、海。まだ6月で朝だというのに既に真夏のような暑さ、青い空、入道雲。
「これ着て。水着の上から着ればいいからさ」
「「はい」」
新垣と亀井はいとこの兄ちゃんから、準備してあったサーフスーツ(ハーフ)を受け取った。
いとこの兄ちゃんは、僕を脇に捕まえて、また言った。
「着替えは、車の後の方で美貴を一緒に着替えて。──俺らがその辺で見張っとくから。」
すっかり鼻の下を伸ばしたいとこの兄ちゃんを見て、藤本さんが冷たく言った。
「このエロ親父。──そしてエロ小僧」

気が付くと僕の鼻の下も伸びていた。
その光景を見た新垣と亀井は、僕に睨みをきかした。
僕は血の気が一瞬でうせた。

30 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/24(金) 22:08:17 ID:???
「「ねぇ」」
僕の両隣に座り込んだ後、新垣と亀井は、僕の前で視線を一度合わせ、
次に僕の方を向いて、同時にそう言った。

「どうした?」
僕は首を両方に振りながら二人に聞いた。すると、新垣が話し始めた。
「あのさ、あんたはさ、私と亀、どっちが好き?」

「えっ?」
いきなりそう言われて僕は驚いた。
今まで、その言葉だけは二人から聞いていなかった。
むしろ僕は、聞かれるのを恐れていた。
僕はじっと見つめる新垣と亀井の顔を順に見た後、そのまま砂の上に寝転び、空を見て考え込んだ。

僕は流れる雲を目で追いかけながらぼんやりと考えた末、
一旦瞳を閉じて最初に浮かんだ顔の名前を言おうと思った。
ここで発した僕の言葉でこれからの3人の関係が変わる、そう覚悟した。

眼下にこちらを見つめる新垣と亀井を見ながら、ゆっくりと瞳を閉じる。
──浮かんだ。僕は決めた。
すっくと起き上がり、新垣と亀井を前にして、ついに言った。

「僕は──」

新垣と亀井は固唾を呑んで僕の発言を待った。

31 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/25(土) 00:32:25 ID:???
「僕は──れいにゃが好きだ」

「「はぁぁぁ!?」」
僕は正直な気持ちを述べた。そう、僕は『娘。』のれいにゃヲタだった。
新垣も亀井もかなりいい所まで行ったけど、僕にとってまだまだだった。
れいにゃを超える存在なんて無かった。

新垣と亀井はしばらく放心状態になった。
大丈夫か?と肩を揺すっても、二人は岩のように微動だにしなかった。
しばらくして、新垣が正気に戻って僕の事をを睨み、無言のまま自分のリュックを漁り始めた。
それは置いといて、僕は亀井の肩を揺すって正気に戻させた。

そんな僕を新垣は押しのけ、気が付いた亀井の手に何かを装着した。
振り向いた新垣の右手と、こっちを睨みだした亀井の左手には見慣れたものが着けられていた。
「それは?もしかして──」
怯えながら僕は問いかけたが、新垣と亀井はそれを聞かずに腕を振りかぶった。

「「このバカ!」」
そう言ってカイザーナックルの装着された手を振りぬく新垣の亀井の動きが、僕にはスローモーションに見えた。
交通事故の時とかにこんな感覚になるって言ってたな──ゆっくりと進む時間の中で、僕はそう思った。
初夏の光を反射しながらゆっくりと向かってくるカイザーナックルの指の背部分には、何か文字が彫ってあった。
新垣の手と亀井の手が近付くにつれて、その文字が読めてきた。
左から、「モ」「ー」「ニ」「ン」、「グ」「娘」「。」「命」。

僕はそこから先の事をあまり覚えていない。




【 SIDE-A 終了】

32 :名無しちゃんいい子なのにね:2005/06/28(火) 17:00:13 ID:???O
頑張って!面白いぞ

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